「やおい小説家なんかじゃないもん。」
 ちょっとおかしなやおい小説です。腐って来てるけど……(笑)。
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DATE: 2006/03/27(月)   CATEGORY: 第一章
その三。
 このオカマ……、いや、ニューハーフか、上村のやつにホントにそっくりだ。昨日のクライアントを誘ってまたこの店に来てしまったが、見れば見るほどあいつそのものなんだ。オレにとっては、ちと辛いが。

 「平塚さんにもこの趣味があったなんて、僕、驚きですよ。」

 仕事でなければ一緒に飲みたくもないタイプの、じとじとした男だったが、経費で落とすんだったら一人じゃ困る。

 「鈴木さん、この世界、お詳しそうですね。オレは昨日が初めてで、ちっとショックだったと言うか、綺麗なニューハーフもいるんですね、ってのが本音です。お化け屋敷か、って覚悟していたんだが。」

 店の中は込み合っていて、全部のボックスに「女の子」がついているわけではない。オレ達のところも、さっきママ(パパ?)らしき人が挨拶に来たきりだ。

 他のニューハーフたちは、お化けまでとは言わないが、やっぱり原型は男ってはっきりわかる。おまけに、場末の商売女をもっと下卑たようにした感じだ。こいつら、やっぱりオカマだ。オカマ言葉、しゃべってるしな。隣のボックスで大口開けて笑ってるやつを見ると、化粧に油がべっとり浮いている。オレは慌てて目を伏せて、失礼にならないようにそっと視線を逸らした。疲れるぜ。

 鈴木は何か、自分はどこそこの店に行った、上野のニューハーフ・ヘルスの何々ちゃんは絶品だとか、聞きもしないのにベラベラしゃべっている。こいつは、きれいだったら男も抱くのか。オレは適当に頷きながら、あの上村似の子を横目で追っていた。

 上村と初めて会ったのは、オレが今の会社にスカウトされた5年前のことだった。なかなか頭のいいやつだったし、機転も利いた。打てば響くって感じで、オレとは馬が合う。それに、オレ好みの細身でボーイッシュ、はっきりした顔立ちだったから、速攻で粉をかけた。何度か「今夜はいける」と思ったこともあったが、軽く身をかわされ続けて、まだ手も握っていない。今じゃ、そういうこと抜きの楽しい飲み友達だが、オレはあきらめたわけじゃあない。

 もちろん、あいつが相手してくれないからと言って、そっくりなオカマを口説くつもりなんか、ない。女相手だって、ケツに入れるなんて考えたこともない。が、今、カウンターの中で客の話に相づちを打っているあの子は……。オレは、不覚にも萌してきたのを感じて、椅子に深く座り直した。

 その時、あの子がふと目を上げた。オレの目とあの子の視線が絡み合う。眼をそらそうとしたが、ダメだった。畜生、高校生の童貞坊やじゃあるまいし、女に見とれるなんて(って、男なんだが)、オレは……。

 その時、上村似の子はオレにニコッと笑いかけると、隣にいたハゲのバーテンダーに何か耳打ちした。そして、目をオレに向けたまま、カウンターの端を廻ってこっちに歩いてくる。オレは、自分が口をポカンと開けて、ひどい馬鹿面を晒しているのに気づいたが、どうしようもなかった。

 この子が、オレの隣に座った。そして言った。

 「あれ、昨日もいらっしゃってましたよね。はじめまして、あゆみ、と申します。」

 ……どうせ源氏名なんだろうが、名前まで上村と同じとはな。ちっと出来過ぎだぜ、こいつは……。
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DATE: 2006/03/27(月)   CATEGORY: 第一章
その二。
 イライラしながら残業を終えると、もう21時だった。平塚はまた接待するのかされるのか、夕方頃に黙って消えた。

 塚ちゃんは同期だけど、他の代理店から引き抜かれた途中入社で、わたしより確か五つ年上の32。わたしたちが採用されて最初の飲み会で、あの大声でみんなの前で口説かれて、その後も毎回口説かれるけど、二人で飲んでるときはそういうこと言わないから、きっとふざけているんだろう……。そういう関係、嫌いじゃないし、わたしにはすごく都合が良かった。けど、職場でも今日のお昼みたいな感じで話しかけてくるし、わたしも彼に合わせているうちに、周りから「お調子者カップル」とか、「漫才カップル」と言われるようになってしまった。そんなキャラじゃなかったのに……。

 弟の携帯を鳴らしたけど、留守電になってる。家に電話をしたけど、当然誰も出ない。あのお店をそっと覗いてみたい……なんて思ったけど、もちろんそんなことは無理。ニアミスは絶対に避けなければ。

 お昼にあの話を聞いたときは一瞬血の気が引いたけど、弟がそういうお店で働きたいと言うのを渋々ながらも許したのは、わたしだし。営業は毎晩接待に出るような業界だけど、その手のお店が接待に使われたなんてあんまり聞かなかったから……って、言わないよな、普通。でも、甘かった。しかも、よりによって平塚が行くなんて。彼にはその趣味はないから、もう行くこともないだろうけど、弟には注意しておかなければならない……。

 結局その夜は、住んでいる街の駅前にある居酒屋さんでご飯を済ませた。厳しいママさんがいて、酔って女の子に話しかけるようなお客は常連にはしないお店だ(つまり、冷たくあしらって二度と来ないようにし向けてくれる)。軽く飲むつもりだったけど、知り合いの人も何人かいたりして、話につき合っているうちに12時を回ってちょっと酔ってしまった。家でシャワーを浴びて、弟が帰るのをベッドで待っているうちに眠ってしまった。

 朝目が覚めると、隣に「わたし」が眠っていた。
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DATE: 2006/03/27(月)   CATEGORY: 第一章
その一。
 「かみむら~、お前って夜、ゲイバーでバイトしてんだろ!」

 頭上に大声が響いて、頭の天辺を平手でばしばし叩かれた。口からパスタをぶら下げたままギョッとして見上げると、同僚の平塚だった。長身で、ヒゲの濃い顔に黒縁のメガネ。髪を後ろで括ってる。イタリア物のスーツを、センス良く「着崩して」る。同じクリエイティブ局では、同期と言うこともあって週に数回は飲み歩く仲だ。

 ゲイバー、って聞いたから、鼻からスパゲティが出そうになったけど、必死にこらえた。飲み込む間に、なんとか平静を取り戻した。

 「なに言ってん、わたし、昨日はあんたのせいで、11時まで残業だったんだよ? 直帰するから部長に例の書類出せってメールだったからそうしたら、やり直しだったんだよ。なのにあんたはゲイバーなの、え? それに大体、あんた、そんな変な趣味あったの?」

 平塚は空いていたわたしの隣にドサッと座り、ニヘラと笑うと言った。

 「いやあ、昨夜は**の接待でさ、六本木のちっと高級なとこ、ネットで調べて行ったんだよ。なんかさ、すっごい綺麗なニューハーフがいるって店。あ、そういやあそこは、ゲイバーじゃなくてニューハーフ・パブか。とにかくそしたらさ、ドア開けたらお前がカウンターの向こうに立ってんだよ。いや、ホントそっくりなんだな、これがさ。」

 ……だから止めろって、言ったじゃん。あの馬鹿。

 「で、思わず絶句してさ、阿呆みたいに口開けてその女……、いや、オカマさんを観てたら、その人がにっこり笑って言ったわけ。いらっしゃいませ、ってさ。そしたら、声がやっぱり低いんだな。それに、ボックスに座ってから横目で見てると、胸もケツも上村よりでっかいし、髪もお前がショートなのにあっちは長かったし。んで、これはまあ他人のそら似かな、と(笑)。それに、あっちの方がお前より美人だったもんなあ!」

 ……こうなったら、ちゃんと聞いておこう。

 「塚ちゃんさあ、そのお店って、触らせたり、抱かせたりする手のお店? あんた、それでその子をどうしたの?」

 「普通のキャバクラとかだったら口説いたかもなあ。けど、オカマだぜオカマ。おまけに、上村にそっくりなんだ。オレが口説くわけ、ないだろ。」

 ……なに言ってんだか。最初のコンパで口説いてきたのは、誰だ。
 
 「でもさ、新宿二丁目とかだったら、やらせてくれる店がどうしたこうしたって、昨日ネット見ながら言ってたじゃん。クライアントがその趣味だけどオレはやっぱり嫌だとか。そういう店だったから、そこに行ったんじゃないの?」

 平塚は携帯を引っぱり出して、時計を確かめて言った。

 「いや、結局はさ、その人もその手のオカマに興味があって、一度行ってみたいって程度だったみたいだよ。それに、あの店は酒がボトルで一本5万だぜ、5万。酒だけでもう充分儲かってんじゃないのかな---と、オレは打ち合わせだから、もう行くよ。昨日の詫びで、ここはオレの奢りだ、感謝しろよ。んじゃまたな、オカマちゃん!」

 伝票をつまむと立ち上がり、手を振りながら食堂の出口に向かう平塚の背に向けて、わたしは「何言ってんだ、変態はお前だろっ! 社員食堂で借りを返せると思うなよっ!」と言い返した。周りの人たちが、またあの二人か……なんて感じで、笑ってこっちを見てる。

 食欲はゼロになっていた。

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