「やおい小説家なんかじゃないもん。」
 ちょっとおかしなやおい小説です。腐って来てるけど……(笑)。
DATE: --/--/--(--)   CATEGORY: スポンサー広告
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
page top
DATE: 2006/07/06(木)   CATEGORY: 第一章
その四。
 その「あゆみ」と名乗ったオカマ……、いや、ニューハーフさんは、オレと鈴木の間に座った。他のオカマとは違って、大仰にシナを作るでもなく、歯をむき出して愛想笑いをするわけでもなく、黙って微笑みながらオレ達の水割りを作り足し終わると、背を伸ばし、きちんと揃えた両脚の膝に両手を添えて、悪戯っぽい表情でオレと鈴木を交互に見た。

 「ども……」と言おうとしたが、喉がからからで音にならなかった。慌てて水割りを(まあ、オレにとっては水のようなもんだが)を呷ってちょっと咽せた。乾いた喉にアルコールが沁みたんだ。

 鈴木は、オレがもたついている間に、下品ににやつきながらあゆみに話しかけていた。「あゆみちゃん、ホントに女みたいだねぇ!」「わかった! サクラの女の子なんでしょっ?! こんなきれいなニューハーフ、いるはずないじゃん!」……。お絞りで口元を拭いながらあゆみの様子を横目で見ると、鈴木の奴に微笑みかけていたが、何も答えなかった。あの阿呆は、いつもの水商売のオカマとは調子が違うとやっと気づいたんだろう、ばつが悪そうに目を泳がせると、水割りのグラスを取り上げた。

 あゆみがオレを見た。

 オレは、あゆみの腰つきや胸のふくらみをしげしげと観察した後、面高で品のある横顔に見とれてしまっていたから、オレとあゆみの視線が真正面からぶつかり合うことになった。そして、数秒の間、しっかりと絡み合った。

 オレは、目玉の表面が乾いて行くのがわかるくらい、瞬きもできずにあゆみを見ていた---どうしても目が離せなかったんだ。あゆみは、そんなオレを不思議そうに見ていたが、やがて目を斜めにそらすとうつむいて、困ったように微笑んだ。

 「あ、いや……、ごめんごめん。こういう場所は、あんまり馴染みがなくてね。失礼した。お詫びに、一杯どうかな?」

 オレは照れ隠しに、大きく手を挙げて男の(って、この店内には男しかいないが)フロア担当に合図した。

 しばらくの間、三人でとりとめのない話をした。女が話題に困った時にはゴミ捨て場の話をするようだが、男は大抵、仕事の話だ。鈴木はふんぞり返りながら奴の会社の社名を明かしたが、あゆみから返ってきたのは「すごいわねぇ!」という追従ではなくて、ウンウンという軽いうなずきだけだった。明らかに拍子抜けした奴は、オレを指さして、「いやー、この平塚さんはさあ、あの*通の伝説なんだよ? なんせ、**堂から引き抜かれてさ。ほら、僕の会社の新車のCM、この人が作ったんだから。」と、オレに話を振りやがった。

 あゆみは、その細い首を廻してオレを見た。オレは、目のやり場が無かったし、また喉がからからでひっついていたから、うつむき加減にだらしなく視線を彷徨わせていることしかできなかったんだ。

 その時、カウンターから、「あゆみさーん、7番テーブルでお呼びでーす」という声がして、あゆみの「はーい。」という返事が聞こえた。顔を上げると、あゆみがオレを見て、面はゆそうに微笑んでいた。そして、「あ、わたし、まだお名刺差し上げてませんでしたよね。今取ってきますから……」と言い残して消えた。

 鈴木はそのでかい安物のカバンから財布を取り出している。今時財布に名刺かよ。オレは、ブレザーのポケットから革製の名刺入れを抜き出した。あゆみが戻ってきた。名刺を交換した。あゆみがお辞儀して、他のテーブルに向かった。

 「出ましょう、鈴木さん。」

 支払を済ませ、タクシーが来るまでの間、鈴木は小声でねちねちと「あのオカマ、絶対接客業に向いてませんよ。」、「どうせ整形に違いないのに、お高くとまりやがって……」とかなんとか愚痴っている。オレは、ようやく来たタクシーに奴を放り込むと、運転手にタクシー券を切った。

 「すみません、今夜はちょっと別件がもう一つあって」と鈴木に告げ、タクシーが消えるのを見送ってからあゆみの名刺を取り出した。

 裏に、手書きで携帯の番号、時間が書いてあった。オレはそれまで時間をつぶそうと、チェーン店のコーヒー屋を探しながら六本木通りを下っていった。
スポンサーサイト
[ TB*0 | CO*2 ] page top
DATE: 2006/03/27(月)   CATEGORY: 第一章
その三。
 このオカマ……、いや、ニューハーフか、上村のやつにホントにそっくりだ。昨日のクライアントを誘ってまたこの店に来てしまったが、見れば見るほどあいつそのものなんだ。オレにとっては、ちと辛いが。

 「平塚さんにもこの趣味があったなんて、僕、驚きですよ。」

 仕事でなければ一緒に飲みたくもないタイプの、じとじとした男だったが、経費で落とすんだったら一人じゃ困る。

 「鈴木さん、この世界、お詳しそうですね。オレは昨日が初めてで、ちっとショックだったと言うか、綺麗なニューハーフもいるんですね、ってのが本音です。お化け屋敷か、って覚悟していたんだが。」

 店の中は込み合っていて、全部のボックスに「女の子」がついているわけではない。オレ達のところも、さっきママ(パパ?)らしき人が挨拶に来たきりだ。

 他のニューハーフたちは、お化けまでとは言わないが、やっぱり原型は男ってはっきりわかる。おまけに、場末の商売女をもっと下卑たようにした感じだ。こいつら、やっぱりオカマだ。オカマ言葉、しゃべってるしな。隣のボックスで大口開けて笑ってるやつを見ると、化粧に油がべっとり浮いている。オレは慌てて目を伏せて、失礼にならないようにそっと視線を逸らした。疲れるぜ。

 鈴木は何か、自分はどこそこの店に行った、上野のニューハーフ・ヘルスの何々ちゃんは絶品だとか、聞きもしないのにベラベラしゃべっている。こいつは、きれいだったら男も抱くのか。オレは適当に頷きながら、あの上村似の子を横目で追っていた。

 上村と初めて会ったのは、オレが今の会社にスカウトされた5年前のことだった。なかなか頭のいいやつだったし、機転も利いた。打てば響くって感じで、オレとは馬が合う。それに、オレ好みの細身でボーイッシュ、はっきりした顔立ちだったから、速攻で粉をかけた。何度か「今夜はいける」と思ったこともあったが、軽く身をかわされ続けて、まだ手も握っていない。今じゃ、そういうこと抜きの楽しい飲み友達だが、オレはあきらめたわけじゃあない。

 もちろん、あいつが相手してくれないからと言って、そっくりなオカマを口説くつもりなんか、ない。女相手だって、ケツに入れるなんて考えたこともない。が、今、カウンターの中で客の話に相づちを打っているあの子は……。オレは、不覚にも萌してきたのを感じて、椅子に深く座り直した。

 その時、あの子がふと目を上げた。オレの目とあの子の視線が絡み合う。眼をそらそうとしたが、ダメだった。畜生、高校生の童貞坊やじゃあるまいし、女に見とれるなんて(って、男なんだが)、オレは……。

 その時、上村似の子はオレにニコッと笑いかけると、隣にいたハゲのバーテンダーに何か耳打ちした。そして、目をオレに向けたまま、カウンターの端を廻ってこっちに歩いてくる。オレは、自分が口をポカンと開けて、ひどい馬鹿面を晒しているのに気づいたが、どうしようもなかった。

 この子が、オレの隣に座った。そして言った。

 「あれ、昨日もいらっしゃってましたよね。はじめまして、あゆみ、と申します。」

 ……どうせ源氏名なんだろうが、名前まで上村と同じとはな。ちっと出来過ぎだぜ、こいつは……。
[ TB*0 | CO*0 ] page top
DATE: 2006/03/27(月)   CATEGORY: 第一章
その二。
 イライラしながら残業を終えると、もう21時だった。平塚はまた接待するのかされるのか、夕方頃に黙って消えた。

 塚ちゃんは同期だけど、他の代理店から引き抜かれた途中入社で、わたしより確か五つ年上の32。わたしたちが採用されて最初の飲み会で、あの大声でみんなの前で口説かれて、その後も毎回口説かれるけど、二人で飲んでるときはそういうこと言わないから、きっとふざけているんだろう……。そういう関係、嫌いじゃないし、わたしにはすごく都合が良かった。けど、職場でも今日のお昼みたいな感じで話しかけてくるし、わたしも彼に合わせているうちに、周りから「お調子者カップル」とか、「漫才カップル」と言われるようになってしまった。そんなキャラじゃなかったのに……。

 弟の携帯を鳴らしたけど、留守電になってる。家に電話をしたけど、当然誰も出ない。あのお店をそっと覗いてみたい……なんて思ったけど、もちろんそんなことは無理。ニアミスは絶対に避けなければ。

 お昼にあの話を聞いたときは一瞬血の気が引いたけど、弟がそういうお店で働きたいと言うのを渋々ながらも許したのは、わたしだし。営業は毎晩接待に出るような業界だけど、その手のお店が接待に使われたなんてあんまり聞かなかったから……って、言わないよな、普通。でも、甘かった。しかも、よりによって平塚が行くなんて。彼にはその趣味はないから、もう行くこともないだろうけど、弟には注意しておかなければならない……。

 結局その夜は、住んでいる街の駅前にある居酒屋さんでご飯を済ませた。厳しいママさんがいて、酔って女の子に話しかけるようなお客は常連にはしないお店だ(つまり、冷たくあしらって二度と来ないようにし向けてくれる)。軽く飲むつもりだったけど、知り合いの人も何人かいたりして、話につき合っているうちに12時を回ってちょっと酔ってしまった。家でシャワーを浴びて、弟が帰るのをベッドで待っているうちに眠ってしまった。

 朝目が覚めると、隣に「わたし」が眠っていた。
[ TB*0 | CO*0 ] page top
DATE: 2006/03/27(月)   CATEGORY: 第一章
その一。
 「かみむら~、お前って夜、ゲイバーでバイトしてんだろ!」

 頭上に大声が響いて、頭の天辺を平手でばしばし叩かれた。口からパスタをぶら下げたままギョッとして見上げると、同僚の平塚だった。長身で、ヒゲの濃い顔に黒縁のメガネ。髪を後ろで括ってる。イタリア物のスーツを、センス良く「着崩して」る。同じクリエイティブ局では、同期と言うこともあって週に数回は飲み歩く仲だ。

 ゲイバー、って聞いたから、鼻からスパゲティが出そうになったけど、必死にこらえた。飲み込む間に、なんとか平静を取り戻した。

 「なに言ってん、わたし、昨日はあんたのせいで、11時まで残業だったんだよ? 直帰するから部長に例の書類出せってメールだったからそうしたら、やり直しだったんだよ。なのにあんたはゲイバーなの、え? それに大体、あんた、そんな変な趣味あったの?」

 平塚は空いていたわたしの隣にドサッと座り、ニヘラと笑うと言った。

 「いやあ、昨夜は**の接待でさ、六本木のちっと高級なとこ、ネットで調べて行ったんだよ。なんかさ、すっごい綺麗なニューハーフがいるって店。あ、そういやあそこは、ゲイバーじゃなくてニューハーフ・パブか。とにかくそしたらさ、ドア開けたらお前がカウンターの向こうに立ってんだよ。いや、ホントそっくりなんだな、これがさ。」

 ……だから止めろって、言ったじゃん。あの馬鹿。

 「で、思わず絶句してさ、阿呆みたいに口開けてその女……、いや、オカマさんを観てたら、その人がにっこり笑って言ったわけ。いらっしゃいませ、ってさ。そしたら、声がやっぱり低いんだな。それに、ボックスに座ってから横目で見てると、胸もケツも上村よりでっかいし、髪もお前がショートなのにあっちは長かったし。んで、これはまあ他人のそら似かな、と(笑)。それに、あっちの方がお前より美人だったもんなあ!」

 ……こうなったら、ちゃんと聞いておこう。

 「塚ちゃんさあ、そのお店って、触らせたり、抱かせたりする手のお店? あんた、それでその子をどうしたの?」

 「普通のキャバクラとかだったら口説いたかもなあ。けど、オカマだぜオカマ。おまけに、上村にそっくりなんだ。オレが口説くわけ、ないだろ。」

 ……なに言ってんだか。最初のコンパで口説いてきたのは、誰だ。
 
 「でもさ、新宿二丁目とかだったら、やらせてくれる店がどうしたこうしたって、昨日ネット見ながら言ってたじゃん。クライアントがその趣味だけどオレはやっぱり嫌だとか。そういう店だったから、そこに行ったんじゃないの?」

 平塚は携帯を引っぱり出して、時計を確かめて言った。

 「いや、結局はさ、その人もその手のオカマに興味があって、一度行ってみたいって程度だったみたいだよ。それに、あの店は酒がボトルで一本5万だぜ、5万。酒だけでもう充分儲かってんじゃないのかな---と、オレは打ち合わせだから、もう行くよ。昨日の詫びで、ここはオレの奢りだ、感謝しろよ。んじゃまたな、オカマちゃん!」

 伝票をつまむと立ち上がり、手を振りながら食堂の出口に向かう平塚の背に向けて、わたしは「何言ってんだ、変態はお前だろっ! 社員食堂で借りを返せると思うなよっ!」と言い返した。周りの人たちが、またあの二人か……なんて感じで、笑ってこっちを見てる。

 食欲はゼロになっていた。

[ TB*0 | CO*0 ] page top
Copyright © 「やおい小説家なんかじゃないもん。」. all rights reserved. ページの先頭へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。